
不動産仲介の立場で建物チェック(簡易なインスペクション)を行うことは、本来、中立性の観点から見れば矛盾をはらんでいます。特に、買主の仲介手数料を無料にしている場合、報酬は売主側から得ることになり、その売主の物件に対して指摘を行うという構造は、極めて難しいバランスの上に成り立っています。
また、建物に関する責任の所在も曖昧になりがちです。構造計算書の作成者、役所の完了検査、第三者によるインスペクションなど、複数のチェックが存在する中で、「最後に建物を見た者」がどこまで責任を負うべきなのかという問題は常に付きまといます。
さらに、買主の期待と現実のギャップも無視できません。例えば6,000万円の不動産取引において、無料で実施した簡易チェックに対して、同額の損害賠償責任を負うことは現実的ではありません。あくまでこれは、不動産仲介に付随するサービスの一環であり、保証を前提としたものではないという点をご理解いただく必要があります。
そもそも、宅建士や宅建業者にインスペクションの実施義務はありません。私が行っているのは、建築士としての知見を提供しているに過ぎません。この前提をご理解いただけない場合には、建物チェック(簡易なインスペクション)の実施はお断りせざるを得ません。
より詳細で網羅的な調査を希望される方には、有料のインスペクションを強くおすすめしています。屋根裏から床下まで建物全体を確認するには、専門会社による調査が最も適切です。
それでもなお、こうした多くのしがらみの中で、私は内覧同行時に建物チェックを続けています。それは、買主に納得していただくためであると同時に、自分自身が納得するためでもあります。
建築士としての誇りを胸に、今日もまた一棟一棟の建物と真摯に向き合っています。